毅の買い物 2
ハァ〜。
俺は盛大なため息をついた。
といっても機嫌が悪いわけではない。
むしろ機嫌はすこぶる良かった。
買ってしまった慎吾ロボを乗せ、家に着くまであれやこれやと考え事をしていたお陰で、
自宅マンションの駐車場に辿り着いた頃には、ようやく俺の腹も決まっていた。
誘惑に勝てなかった己の不甲斐なさは悔やまれるけれど、もう買ってしまったものはしょうがない。
しょうがないんだ。うん。
車庫に入ると、まるで死体でも運び出すかのように、そうっとトランクを開け、ロボを取り出す。
乗せる時も思ったのだが、このロボは結構重い。
それもそのはずで、これは等身大。つまり本物と全く同じ身長・体重を持っている。
しかも起動させていない今、ロボは意識の無い人間と同じなのだ。
くっ……。
掛け声と共に腰に力を入れ、何とか引っ張り上げようとする。
ああっ!しまった…!
だがその瞬間、ビリッと嫌な音がして、包装紙に亀裂が入ってしまった。
不安定な形をしているせいか、変な風に重みのかかった破れ目はどんどん広がっていく。
プラスチックのパッケージは、店の方で取ってもらっていたので、
(そうしないと直立状態ではトランクに入らないからだ)
もう完全に口を開けてしまったところから、慎吾の腕がダラリと垂れ下がってくる。
マンションの駐車場で男が1人、妙に重そうな紙包みをトランクから取り出し、
その破れ目からは、垂れ下がる人間の腕…。
こ、これは…かなり怪しい構図だ。
…これではまるで本当に死体を運んでいると思われてしまうじゃないか!
思わずキョロキョロと辺りを伺う。
幸いなことに、日曜の午後の駐車場は閑散として、誰も通りがかりそうにはなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、とりあえず直そうと力無く下げられた慎吾ロボの腕を掴む。
…その時まで俺は心のどこかで「所詮ロボだろ」と思っていたのだけれど。
だが力任せに掴んだその腕の感触と言ったら…!
俺の手を跳ね返すような弾力。
その肌はしなやかで、なぜかちゃんと温かくて…。
ああ、シンゴ。お前も『慎吾』なんだな…。
そう思うとたまらなかった。
俺は何てコイツに酷いことをしたんだろう。
ごめんな。トランクなんかに押し込んだりして…。
ここからはちゃんと抱いていってやるから…。
涙を零さんばかりに詫びを入れ、頬に軽くキスをすると、
俺はシンゴを抱き上げ、いわゆる「お姫様だっこ」というヤツで、部屋まで運ぶことにした。
途中、擦れ違ったマンションの住人は、俺たちの姿に怪訝な顔をしていたようだったが、
そんなコトは全くといって良いほど気にならない。
無論、本物の慎吾とは比べられないが、この慎吾そっくりのロボに対して、
俺は何とも言えない愛着を感じていた。
*****
部屋に入り、ベッドに慎吾を寝かせると、早速俺は説明書を取り出した。
こんな精密機械なのに、やたらと薄っぺらい。
パソコンにしろ携帯電話にしろ、近頃のいわゆる精密機械と言われるものの、
説明書がとにかく分厚いのには、辟易していた俺だったが、
流石にA3で裏表、たったの2Pと言うのはどうだろう。
この「RYOSUCO」って会社…。リョウスコと読むんだろうか?
ちょっと手抜きなんじゃねぇのか?
ま、…いいか。
とりあえず起動させて…。
首を捻りながらも気を取り直し、早速起動させることにする。
もともと機械に弱い方ではないから、この簡素な説明でも何とかなるだろう。
なになに…『全ての起動の操作を終えると10分後に、ロボは目を覚まします。』か。
よし。これで待ってればいいんだな?
ついでだから、というか何と言うか。いや、その…。
起動と一緒に買ってきた別売りの従順モードプログラムをセットしてみる。
これで目が覚めたときには、慎吾はいつも見ることの出来ない本当の姿(←?)のはずだ。
アイツは口は悪いけど、本当はすごく素直で感じやすいヤツだから…。
そんな夢を膨らませながら待つこと数分。
その間ずっと慎吾の寝顔を眺めていた。
すっきり通った鼻筋と、薄い唇…。
ああ、この唇で…。お口で…。
いやいや。
それは違うぞ。しっかりしろ、俺。
夢は果てしなく広がっていたが、
それにしても10分とはこんなに長いものだっただろうか。
痺れを切らして、手を伸ばしそっと頬に触れると、やはり温かい。
この肌の質感と言い、何といい、本当に慎吾そのものだった。
調子に乗って、着せられたパーカーをたくし上げ、
眠っている慎吾のその滑らかな感触を楽しんでいる内に、止まらなくなった。
相手はロボだと、心の片隅ではわかっているのに、俺の股間が張り詰めだす。
本物の慎吾はこんな真昼間、カーテンも引いてないような明るい部屋で、
俺にその姿を見せてくれたりはしないから、こんなにも間近でゆっくりと、
慎吾の肌を見たのは初めてだった。
パーカーの下からあらわれた胸の突起にそっと触れる。
ああ、何て小さくて可愛いんだろう。
思わず口付け、舌先で突付いて、転がすようにして弄ぶ。
「ん…」
ピクリと目蓋が動き、慎吾が反応を返してきた。
いよいよ起動準備が出来たらしい。
何てナイスなタイミングだ!
「…あ、…れ?…毅…?」
まるで寝起きのように、目を擦りながら、慎吾はゆっくりと起き上がった。
おお!俺のことがわかるのか!?
どこをどうやってインプットしてあるのか、目覚めたばかりの慎吾が、
自分の名前をちゃんと呼んだことに、俺は指先がシビれるほど感動した。
そしてそれとともに俺の劣情も急速に高まる。
「やっ…なに?」
着ていた物を半ば脱がされ、しどけない自分の姿に気付いた慎吾が、
慌てて隠すようにして身を捩る。
何て可愛い仕草なんだ!!!
それに真っ赤な顔で恥ずかしがるその表情も、どことなく幼くて、
何とも男心を擽ってくれる。
これがいつもの慎吾だったら、間違いなく頬か腹にキツイ一発をお見舞いされている所だ。
「慎吾…いいじゃねぇか」
そう言いつつ、再び慎吾の服に手をかけると、
困ったような表情を浮かべて、でも抗うことなくベッドに身を横たえた。
眉を少しだけ顰め、上目遣いで縋るようなその瞳。
もはや最近では慎吾のチャームポイントかとすら思い始めた、
鋭い目つきとオーラはどこにも見当たらない。
ま、まさに『従順』!!
こ…こんなセリフにも言い返してこないなんて!
「なぁ。いいだろ」
さらに調子に乗ったまるで悪代官のような俺が、半ば強引にコトに持ち込もうと、
唇を重ねるのにも、慎吾はオズオズと戸惑ったように返してくる。
何かこう…。こんな風にされると、余計に虐めたくなるって言うか…。
困った顔が見たくなるってモンだよな。
勝手なことを思いながら、存分に慎吾の柔らかな口腔を味わい、唇を離すと、
そのままその濡れた唇を、ゆっくりと親指でなぞる。
「な、慎吾…」
名前を呼ぶと、その意味するところを正確に受け取った慎吾は、コクリと頷いた。
慎吾は身体を起し、ベッドを降りると、ベッドに腰掛けた俺の股の間に膝をつく。
「ッ……」
ジリリ…とジッパーの下がる音がして、しなやかな慎吾の指が、俺に触れた。
下着の隙間から顔を出したそれを、軽く握った慎吾は、躊躇ったように俺の顔を伺う。
この表情…。
た、たまんねぇ…。
やっぱこれだろ!
いつもの慎吾と同じ顔、同じ髪。
なのに、表情が違うだけで、こうも印象が違うものだろうか。
上目遣いで俺を見る瞳が、少しだけ潤んでいて、嗜虐心をそそる。
でも。
あの慎吾の。
薄くて形の良い唇から、自分のモノが出入りしている。
その様は俺を興奮させるに充分だった
俺の股間に顔を埋めた慎吾の茶色い髪が、小刻みに揺れるのを、
目で楽しみながら、時折パーカーの襟元から忍ばせた指で、
突起を弄ぶと、その度に慎吾の鼻から抜けるような甘い吐息が漏れる。
「んっ…く…」
「ああ、慎吾…。イイぜ…最高だ」
柔らかくて、アソコより少しだけヒンヤリした慎吾の口の中。
チロチロと先端を嬲ったかと思うと、きつく吸いたて、扱くように舌を絡めてくる。
俺はあまりの気持ちよさに息を弾ませ、指を慎吾の細い髪に差し入れた。
「うっ…ん…」
頭を引き寄せ、腰を突き込むと、慎吾は苦しげに眉を寄せていたが、もう止められない。
「くっ…慎吾…しんごっ…」
そのまま絶頂に駆け上るべく、激しく腰を動かすと、フィニッシュの直前に引き抜いた。
一度やってみたかった。
だがまさかそんなコトをして、慎吾が許してくれるとも思えなかった。
「悪ぃっ…!くっ…う…」
目の前の慎吾に謝り、溢れ出た俺の白濁を慎吾の顔に勢い良く降りかけた。
トロリとした粘液が、慎吾のツンと尖った鼻といい、すんなりと細い頬といい、かまわず、
何が起こったのかわからないでいる慎吾の、放心したような顔中に滴り落ちる。
その何とも扇情的な光景に、出したばかりだというのに、
またしても俺の下半身がツキリと疼く。
「慎吾。脱いで…自分で。気持ち良くしてやるから。な」
呆然とした顔の慎吾の耳元で、ゆっくりと息を吹きかけ甘く囁くと、
慎吾はイヤイヤをするように首を振った。
だがその表情も、まさに恥らう乙女(←?)そのもの。
先刻の奉仕で頬を紅潮させ、俺の吐き出した残滓を顔に残したまま、
泣きそうな瞳で見上げてくる。
「早く…」
「やっ…恥ずかしっ…」
下唇を噛みしめ、首を振る。
そのくせ興奮しているのか、慎吾の前が硬く張り詰めているのが、服の上からでも充分にわかる。
どうもさっきからおかしいと思ってたんだが…。
もしかして…。
俺、さっき間違ってMっ子モード入れちまったか?
それならそれでいい…っていうかむしろ色々楽しめていいか。
いや、いいのか!?
「慎吾…」
心中の葛藤はさておき、促すように、低い声で名前を呼ぶ。
俺は高まる期待にゴクリと生唾を飲み込んだ。
瞬間―――。
「おい。毅ぃー。いるんだったら…」
声と共にガチャリとドアが開いた…。
「あっ………」
「………!?」
部屋中の空気が凍る。
「……っ。何やってんだテメェはよ!?」
慎吾(本物)は一瞬の沈黙の後、知らない人間が見たらマジで逃げ出しそうな睨みをきかし、
頭の先から湯気が出そうな勢いで、掴みかかってきた。
恋人である俺が、別の男とどうみてもいかがわしいコトをしてるのだから、
当たり前と言えば当たり前だが…。
しかもその相手は、自分にソックリなのだから、心中は複雑なことだろう。
「いや…その…」
上手い言い訳など出てくるわけもなく、どう説明して良いやら途方にくれる。
…というか、どんな風に説明した所で許してくれるとも思えない。
「何なんだよ、これは!?ああ?」
「知らないのか?ロボだよロボ!」
いや、とにかく浮気じゃないんだ!
少なくとも俺は慎吾だから、買ったのであって…。
そこはかなり重要だ!
「お前ェ…俺をナメてんのか?」
慎吾の固く握った拳が震えている。
ヤバイ…。
「んなこたぁわかってるっつーの!
どう見たってロボだろーが!?俺に双子の弟はいねぇよ!」
言いながらツカツカと近づいてきた慎吾は、怯えた表情で俺たちを見つめていたロボを、
何故かやけに手馴れた仕草で、さっさと強制終了した。
スイッチの切れたロボは、慎吾ソックリの顔をそのままに、ゆっくりと目蓋を閉じ、
そのまま動かなくなった。
「俺が聞いてんのは、そーゆーコトじゃねぇ!」
ベッドに腰掛けた慎吾の眸がギラリと光る。
「で?何でここにこれがあるわけ?」
その口調は一見、先程までの激昂を収めたかに見えたが、その分かなり冷たーいものだった。
ああ、俺はこの後、どうすればいいんだ…。
****
「チッ…いいところで邪魔が入ったな」
涼介は思わず舌打ちを漏らした。
覗いていた双眼鏡の向こうでは、庄司慎吾が『返して来い!』と言う罵声と共に、
中里をどつきまわしていた。
「やれやれ…。悪いがもう返品は出来ないぞ?使用済みだからな。
…まぁいい。データは取れた。妙義系のロボは撤収だな」
持っていた双眼鏡を下ろし、傍らのノートパソコンに何やら打ち込むと、
後ろに控えていた啓介に帰りの支度をするように促す。
これであの2人がデキていることは、確認が取れた。
中里は誠実そうな顔をしているが、どうやらサディストの傾向強しだな…。
それに意外とムッツリスケベだ…
帰ったらさっそく中里のデータに書き足さなくては…。
「なぁアニキ。俺のロボは?全然見たことねーんだ。見てみてーよ」
先ほどから後ろで啓介が不満げにブツブツ言っている。
当たり前だ。
そもそもそんなものは作っていない。
あるのは俺の部屋のクローゼットにある一体だけ…。
涼介は内心でほくそ笑んだ。
他のロボだって、必要な時に必要な分しか作ってないのだ。
さて、次のターゲットはエンペラーだな…。
岩城の行動パターンを調べることにしよう。
いや。栃木県内にあるデパートを押さえるのが先か…?
これは楽しくなりそうだな…v
END
ホントに毅ファンの方ごめんなさい!
いや。出来上がったものが自分でもビビるくらいに、
毅が変態だったので、これでも直しました…(汗)
もうしないから許して〜!
ところで今気付いたけど、私、涼介初書きでした…。
当初からこのロボ作ったのは涼介だと思ってたんで、出せて満足v