愛のカタチ
「慎吾。コーヒー飲むか?」
「ん…」
中里がセットしたコーヒーメーカーから、部屋中にいい香りが漂ってくる。
慎吾が寝転んでTVを見ている横で、中里はお気に入りだと言う、
革の鞄にせっせとクリームを塗っていた。
最初にそれを見たときには、几帳面なヤツだと、慎吾は半分呆れながら思った。
自分はその時その時で気に入ったものはあるけれど、
マトモに手入れしたことなんて車以外には、ほとんどない。
中里はいつもそういうものに愛着を込めて大事に使っていた。
鞄も車も人もすっげー大事にする。
それが毅らしいっつーか、何つーか。
笑っちゃうけど、オレもそんな風に愛されてんのかなって思ったら、何かくすっぐてーよな。
慎吾は唇の端に微かな笑みを浮かべた。
でも…。
いつもの晩飯を食った後のくつろいだ時間。
本当だったら特に何をしているわけでもないけど、楽しいはずの時間なのに、
何だか最近慎吾は落ち着けないでいた。
「ほら出来たぞ」
「あ。…サンキュ」
慎吾がボンヤリしていると、毅がいつのまにかカップを持って横に立っていた。
寝転んだ姿勢を起こしながら、ふと見上げた中里の目。
あ…。また…。と慎吾は思った。
最近落ち着けないでいる原因はこれだ。
-―――毅の目が怖い。
怒ってるとかそういうのではなく。
どこかギラギラしたような、雄の目をした中里を最近感じるようになった。
もうとっくにキスもしたしヤッてるし。
今さら何にも怖がる必要なんてないはず。
そのSexだって、いつもオレを気遣って、それこそ大切に扱ってくれてる。
それなのになんで?オレ自意識過剰か?
思い出してしまった慎吾は、赤くなった顔を隠すように背けた。
*****
午前1時。今日は中里の帰りが遅い。
会社の送別会だか何だかで遅くなるって言ってたから、きっと飲んでくるんだろう。
「遅ぇつーの…。つーか遅いのわかってんのに約束すんなよな。ったくバカか」
自分にとも中里にともつかない不満を漏らしていると、ガタガタと玄関の方で音がした。
帰って来やがった…。
ふん。出てやる必要なんてねーだろ。
大体ココは毅ん家だしな。
飲んできても殆ど乱れることの無い中里が、今日は少し様子が違う。
部屋に入った途端に鼻腔をくすぐる酒の匂い。覚束ない足取り。
「おいおい。どうしたよ…めずらしーな毅がこんな酔っ払うの」
入ってすぐのキッチンの床に座り込んでしまった中里に、水を手渡してやる。
いつも構われてばかりの自分が世話を焼いてやるというのも、
たまのことなら気分も良いものだ。
慎吾は中里の上着を受け取ってやろうと手を差し出した。
「…酒くせー!ったく飲みすぎだっつーの」
息苦しいのか片手でネクタイを外そうとする中里を制し、中里の首元に手をかける。
「慎吾…」
「……どうした?」
低く名前を呼ばれ、気分でも悪いのかと覗き込んだ慎吾の腕を、
空になったコップを床に置いた中里が掴む。
「痛っ…。オメー酔ってんだろ。力加減しろ…」
掴まれた腕の痛みに、睨みつけようとして、慎吾の言葉が止まる。
また。あの目だ…。
本能的に逃げようとして、その腕をより強く引かれ、
バランスを失った慎吾は中里の方へ倒れこんだ。
「なっ…何すんだよ!?」
気がつけば中里の下に組み敷かれていた。
訳がわからないままに、シャツをはだけられ、乳首を吸いたてられる。
「あっ…」
行為に慣れた身体はそれでも敏感に反応し、慎吾は声を上げた。
「何…なん…だよ…。ヤルな…らそー言え…よ」
言葉1つかけるでもなく始まったことなど、今まで1度もなかった。
いつも優しくて甘いキスから始まって、それから少しずつ激しくなっていくキス。
気持ちよくて、朦朧としてきて…。
いつのまにか慎吾がわからなくなるほどに翻弄される。
力強く引き締まった体躯を持つ中里とお世辞にも筋肉があるとはいえない慎吾。
いくら腕を突っ張った所で、押しのけることなどできようはずも無かった。
塞ぐようにして合わせられた唇から舌が滑り込み、荒々しく口腔を犯す。
「…ん…んんっ」
「慎吾…」
張りのある声で呼ばれ、ぼぅっとなりかけた慎吾の腕を、
中里は先ほど慎吾が外したばかりのネクタイで、後ろ手に縛り上げた。
「たけ…し…。何…?」
下着ごと引き抜いた慎吾の部屋着を足で蹴り、
少し汗ばんだ中里の厚くて大きな手が、慎吾の内腿をゆっくりと行き来する。
「気持ちイイだろ、慎吾…」
「よ…くねぇっ…こんなのっ…やだっ…て、言ってん…だろぉ」
剥き出しになった内側を撫でられ、快楽と羞恥に慎吾の目尻に涙が溜まる。
温ったかくて気持ちいい…けど…。こんなの…。
「あぁっ…んんっ、は…ぁ…、やっ…」
中里が少し滲み始めた先走りを塗りこむように、慎吾自身の先端を指先でくるりと
撫でた。
焦らすようにゆっくりと舌を這わせ、指を使って、激しく扱き上げるその動きに、
慎吾は声を押さえることも出来なくなっていた。
「やあぁ…、あっ…あぁっ」
一際高い声を上げ、慎吾が達すると、ぐったりとした慎吾を抱え上げ、
危なげない足取りでベッドへと運ぶ。
再び圧し掛かられ、涙に濡れた睫毛を剥がすようにして、慎吾が薄く目を開けると、
そこには飢えた雄の目をした中里がいた。
怖ぇ…。いつもの毅じゃねぇ…。
「おま…え…酔って…んじゃ…ねぇのか…よ」
それに中里は答えずに、先ほどまで慎吾が飲んでいた日本酒の残りを、
ゆっくりと口に含んだ。
裏返しにされ、腰を高く持ち上げられ、全てが露になるこの体勢を嫌がって
慎吾はイヤイヤをするように首を振りたてた。
「やだっ…たけしっ」
がっちり押さえ込まれ、奥のすぼまりに唇を押し当てられる。
「んんっ…やっ…な…に?」
奥に流し込まれた、生暖かい刺激物に慎吾は身体を震わせた。
少しピリピリしたかと思うと、内奥がカァッと熱いような感じがしてくる。
固く閉じていたはずのすぼまりが、ふわふわと頼りない。
タラリと零れた液体が内腿を伝う。
奥に注がれたものを吸い上げて、ぬめったものが入り込む。
「はぁっ…」
内壁をくすぐる舌とグルグルとこじるように回される指。
ジンジンとアルコールに火照った粘膜は、いつもより敏感だった。
それを舌でねろりと舐め上げられ、慎吾はあまりの気持ちよさに身悶えた。
「ん…あっ、やっ…だ…あっ」
充血した内壁が刺激を求めて、ヒクヒクと蠢く。
慎吾の前は再び硬く立ち上がり、先端からポタポタと露を零していた。
こんなのっ…やだっ…。
奥を突くような動きで出し入れを始めた中里の指に、
ともすれば自分から腰を動かしてしまいそうになる。
「ココ真っ赤になってるぜ慎吾…。腰動かして…。やらしいな…」
慎吾は恥ずかしさに耐えられなくて深くシーツに顔をうずめた。
「挿れて欲しいのか?慎吾」
意地悪く耳元で息を吹きかけながら、囁く中里。
「やっ…。んなわけ…ねっ」
だが注ぎ込まれたアルコールと執拗な愛撫に熱くなった粘膜と身体は、
慎吾の理性を裏切っていた。
もっと欲しいっ…。
「言えよ…。言ったら俺の、挿れてやる…」
指を抜かれ、かわりにもっと熱く硬いものが入り口を突付く。
「なぁ…慎吾」
中里が耳を甘噛みしながら、言う。
これ以上焦らされるのには耐えられない。
はしたない入り口が押し当てられたものを取り込もうと、蠢いていた。
「………れ…て…」
「聞こえないぞ…」
「そ…んなっ…」
あまりの羞恥に涙が零れた。
今日の毅はきっと言うまでは許してくれない…。
言わせたがるのはいつものコトだけど…。でも…。
「たけ…しの……。挿れ…てく…」
「慎吾っ…たまんねぇっ…」
言い終わる前に、搾り出すような低い声と共に、そこに中里のものが一気に突き込まれる。
「ああっ…あっ…あ…、んっはぁあ…」
性急に突き上げる動きに、慎吾は翻弄された。
「くっ…んっ」
繋がったまま仰向けに戻され、足を高く抱えられる。
突き刺すように深く中里が慎吾をえぐる。
「あっ…ああったけ…しっ…いいっ」
もっわかんねっ…きもち…いいっ…。
感じる所を何度も突き、擦られる。
慎吾はもう恥ずかしいという気持ちすらわからなくなっていた。
締まらなくなった口元は、唾液と声を垂れ流し、
ひたすらに中里の与えてくれる快感に悶えていた。
「慎吾。すげぇ…たまんねぇっ」
中里が慎吾をきつく抱きしめ、熱っぽいキスをする。
「んっ…たけしぃっ…あっもっ…イ…クっ」
「慎吾っ…」
中里の腕の温かさを感じながら慎吾は達した。
その刺激に中里も慎吾の中にぶちまける。
****
ギリギリまで高ぶった慎吾は、自分の腹の上に吐き出し、
そのまま意識を飛ばしてしまった。
後始末をしながら中里はため息をついた。
やっちまった……。
最近の俺ははっきり言っておかしかった。
自分で言うのもなんだが、俺はそんなにがっついた方ではなかったはずなのに、
どういうわけか慎吾を見るたびに欲情する。
しかもメチャメチャに壊してしまうほどに抱いてみたいと思うようになっていた。
好きな人の泣き顔が見たいと思ってしまう俺は異常なんだろうか。いや…。異常だろうな。
自分ではノーマルなつもりだったのだが、俺って本当はサディストだったのだろうか?
それを感じたのか、時折慎吾の見せる、怯えたような目がさらに一層それを煽った。
そしてついにやってしまった…。
酔っていたとはいえ、慎吾を泣かしてしまった自分に腹が立つ。
笑顔が見たいと本当は思っているのに…。
「……ん」
ベッドの上で慎吾が身じろぐ。
「目、覚めたか?」
おそるおそる声をかけてみると、案の定不機嫌そうな慎吾の顔。
まぁ当たり前といえば当たり前だが…。
「……何なんだよ。一体…」
ムスッとしながら、慎吾がこちらを睨みつける。
「怒らないで聞いてくれるか?」
「ああ?んなの約束できねぇ」
「はぁ――――?」
煙草を吸っている慎吾の顔がヒクヒクと引きつる。
これは一発くらい殴られてやらなきゃいけないかもしれない。
「お前って…もしかしてS?」
だが慎吾は、はぁ〜と大きくため息をついて、意外にも冷静だった。
「別に…。いいぜ。それでも…。まぁ、よ…かったし…」
「慎吾…?」
俺は慎吾のセリフが信じられなくて、聞き返した。
「バカか。何度も言わせんな…。つーかぜってー言わねぇ!
大体、何か悪いことしたかと思って心配してたオレ、バカみてーじゃねえか!」
「慎吾。かわいいな」
ふん。と鼻で鳴らしながらも赤くなっている慎吾が可愛くて、
思わず抱きしめてキスをしてしまう。
『可愛くて可愛くて食べてしまいたい』というのは、こういうことか。
生まれてこの方ずっとわからなかったことが、妙に納得出来た。
「ごめんな。慎吾…」
「あ、おい!何やってんだよ!…あっ…ちょっ」
お許しも出たことだし、もう1ラウンド楽しませてもらうことにしよう。
中里はすっかりその気で、慎吾をベッドへと沈めた…。
END
こうしてバカップルの楽しい夜は更けていくのであった(笑)
リクは「鬼畜物」だったのですが…。
一体どこが?って自分でツッコミ入れてます。
中里がやっぱりヘタレです〜(泣)
はんげ様本当にごめんなさい〜!!(滝汗)
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